以前子どもを夫に連れ去られた時の、裁判の体験談です。
シリアスな内容なので記事が長めになってしまい申し訳ありません。
過去の出来事はカテゴリー「連れ去り」からご覧下さい。



申立の方法
子どもを一方の配偶者に同意なしに連れ去られた場合、子の引き渡しに関する裁判の申立をし、法的手段で取り戻さなければなりません。
子の引き渡し裁判の申立のやり方については別記事にまとめているので、よろしければそちらをご覧ください。
陳述書について
子の引き渡し裁判の申立をしたら、裁判所から初回期日の連絡が来るので、その日までに陳述書の準備をしておきます。
私の場合、初回期日はおおよそ申立をしてから一月ほどでした。
陳述書の書き方についても上のリンクにまとめていますので、ご覧下さいね。
陳述書を裁判所に提出すると、相手方からも陳述書の提出があります。
相手方は子どもを連れて家を出たことを正当化しなければならないため、陳述書には些細な出来事でも誇張した表現を用いてさも大事のように表現します。
また、子どもがもう片方の配偶者がいなくとも健全に生活を営めると証明しなくてはならないため、場合によってはこちらの精神に動揺を与えるような内容になっていると思いますが、落ち着いて対処しましょう。
私の場合は、夫の陳述書は以下のような内容でした。
「妻が育児に困難を感じており、不安定であった。娘に過剰に勉強を強いて、それが娘に多大な精神的負担を与えていた。やれと言われる勉強はつまらない、と娘がある時ぽつりと漏らしたことがあり、そのことで私は娘が精神的に限界であると感じた」
夫の陳述書を初めて読んだ時、正直あまりの理由の下らなさに驚いてしまいました。
夫は、娘はとても頑張り屋で絶対に弱音を吐いたりしない子だと主張しており、その子が辛さを表現するということはよほど精神的に参っているようだと考えたとのことでしたが、もしこれを本気で信じているのだとしたら、相当に娘を神聖視しているなという印象でした。
残念ながら娘は全く根性があるタイプではないし、ADHDの特性からしても嫌なことは後回しにしてやりたがりませんし、当時から今もそれは変わっていません。
娘が本当にそんなど根性タイプであったとするならば、今頃スポーツや芸術その他の分野で何らかの成績を残していてもおかしくないはずです。
私にはこれが連れ去りするだけの正当な理由であるとは到底思えず、夫がたったこれだけのことで本気で娘が精神的に追い詰められていると感じ、主張しているのであればちょっと苦しい言い訳だと感じました。
この時に感じた違和感は後に夫が不倫していたという裏付けによって納得することとなりました。
夫には不倫相手がいましたので、家を出るための何らかの言い訳が必要だった、ということです。
進行について
子の引き渡し裁判についてはおおよそ初回期日で双方の言い分を聞き、家庭訪問や試行面会を経て調査官の報告書に基づいて結果を出す、という流れになると思います。
私が知り合った当事者の方達も、このような流れでした。
初回期日は裁判所と事務所で決定するので、場合によっては相手方の都合がつかず欠席になることもありえます。
私の場合、夫の弁護士さんの予定が埋まっており事前に欠席するとの連絡がありましたが、このようなことは珍しくないと私の弁護士さんは言っていました。
しかしそれでも申立人は出廷したほうが裁判官への心象がよいとのことで、初回は相手方が来ないと分かっていながら500キロ離れた裁判所に赴きました。
初回期日の時に夫はどこにいるのかなと気になってGPSで居場所を見てみましたが、普通に不倫相手のアパートに行っていて、驚いたのと同時に腹が立ちました。
こちらは遠路はるばる子どものためにやって来たというのに、当の本人は呑気に不倫の真っ最中なのですから。
私が裁判官とどんな話をするか、少しは気になったり不安に思ったりしていないのかな、と思ったものです。
そんなわけで初回は私と裁判官がほんの少し話して終わりになりました。
事のあらましは陳述書に書いているので内容の確認が主だった気しますが、主に監護していたのが誰だったのか、というのを聞かれたのは覚えています。
500キロの道のりを数時間かけて行ったのですが、滞在時間は数分でした。
そして2回目の期日は夫側も出席しました。
裁判所とはいっても話し合いの場なので、広めの会議室のような部屋に集められ、そこに裁判官がやって来て双方の話を聞く、といった感じでした。
つまり夫も同室だったわけですが、私はこのことが本当に嫌で仕方がありませんでした。
騙して子どもを連れて行き、その子どもが学校に行っている隙を見計らって不倫相手のアパートに行っているような不心得者が、何食わぬ顔で入室してくるのですから、こちらとしては腸が煮えくりかえるような気分でした。
裁判官が夫には質問していたのに対し、私はあまり質問されませんでした。
この時も裁判官は監護していたのは誰かと聞いていて、夫は「妻です」と答えていました。
この時の2回目の期日で、夫側の家に裁判所の調査官が家庭訪問に行くことと、裁判所で娘と双方の親が別々に会い、その様子を観察する試行面会を行うことが決定しました。
家庭訪問
家庭訪問とは、裁判所の調査官が子どもを監護している親の家に訪れ、養育環境に問題がないかを調査したり親族に聞き込みをすることです。
調査官は男女2名のペアで、場合によっては子どもの小学校や保育園に聞き取り調査することもあります。
私のケースでも、転校先の学校の担任の聞き取り調査が行われました。
通常、このような別居状態だと双方に家庭訪問に行くのが通例だそうですが、私の方には家庭訪問はありませんでした。
弁護士さんは何度か子の引き渡し案件を請け負った経験のある方でしたが、片方だけ家庭訪問を省くというケースは初めてだそうでした。
試行面会
試行面会とは、裁判所のプレイルームでそれぞれの親が子どもと接する様子を観察することを指します。
決められた時間内で遊び、時間が来たら遊んでいた親が退出して入れ替わりにもう片方の親が入室し、遊びます。
両方の親と遊んだ後に調査官が子ども話をして終了となります。
もしこれから試行面会をする方に僭越ながら何かアドバイスさせてもらうとすれば、他人に遊ぶところを観察されるのは緊張しますが、気負わず普段通りに接するのが一番だと思います。
試行面会の時間は45分ほどでした。
たった45分親子が遊ぶ様子を見たところで何がわかるのか、と思う方もおられるでしょう。
親子が過ごした長い年月と比べれば、45分など一瞬に過ぎません。
しかし調査官は専門的知識を有しており、限られた時間の中で可能な限りの情報を読み取っています。
実際に報告書を読んだ時、子どもの仕草から汲み取った細かな心理分析に、私は舌を巻きました。
調査官の報告書
家庭訪問と試行面会の結果から、家庭裁判所の調査官は報告書を作成し、その結果をふまえて裁判官は判断を下します。
よって、調査官の報告書は裁判において大変に重要な役割を持っています。
私のケースでは調査官が「母親の元に返すべき」とはっきり書いてくださったことが大きかったと思います。
調査官がそのように決断した理由はいくつかありますが、その中でも大きいと思われる理由は以下の3点でした。
①娘が産まれてから別居するまで監護していたのが私だったこと。
②試行面会において、私が娘に描いた絵や、差し出したティッシュを娘がとても大事そうに持っていたことから、母子には強い絆があると判断したこと。
③母子が別れる際、娘が通常見られないような愛着行動をとった。このことから娘の精神的影響を考え、なるべく早く元の生活に戻した方が良いと考えた。
上記を踏まえ、監護の継続性から見ても私のところに戻すのが相当、と書かれていました。
そういえば裁判官は、通常監護していた側がどちらであったのか、何度も確認していましたが、それはそういうことだったのかと後になって思いました。
弁護士さんによると、このようにはっきり書いてくれる場合はこちらにとって最も都合が良いものの、「どちらか決めかねる」というように判断を濁すこともあり、そうなると決着がつくまで少し時間がかかるとのことでした。
裁判官からの一言
報告書が出来上がった後、私たちはまた裁判所に向かいました。
前回同様会議室のような部屋で、夫と彼の弁護士も同席していましたが、その席で裁判官は「娘を申立人(私)に返すように」とはっきり告げてくれました。
その上で、今回義理実家に遊びに行くと嘘をついて、騙し討ちのように一方的に子どもを連れ出した行為は、誠実性のかけらも感じることができないと厳しく非難してくれました。
最初は帰るつもりでいたが途中で気が変わり帰らないことにした、と夫は主張していましたが、それも単なる言い訳にすぎずやったことに変わりはない、結果が不満であるなら上告することもできるがおそらく結果は変わらないだろう、とまで言ってくれたのでした。
私にしてみれば、夫に言いたかったことを全て裁判官が代弁してくれて胸のすく思いでした。
弁護士さんは裁判官がここまで言うのは珍しいことだと仰っていましたが、それだけ夫の行為が酷いものだったのだと思います。
夫は裁判官にそこまで言われてもまだ釈然としない様子で娘を返すのを渋っていましたが、最終的に夫の弁護士さんが夫を説得してくれ、娘を返すことを承諾してくれました。
SNSの情報を鵜呑みにしない
子どもを連れ去られたとき、私はとても不安になり、どうしたら良いのか分からずに途方にくれました。
そんな時にふと、「きっと同じような経験をしている人がいるに違いない」と思ってSNSを始めたのです。
確かにSNSには、子どもを連れ去られた方がたくさんいらっしゃいましたが、その方々がくれる情報は私が思っていたものではありませんでした。
「子どもを連れ去られたが最後、二度と戻ってこない」
「連れ去ったもの勝ち」
このようなネガティブなものばかりか、裁判所への不満、弁護士への不満、配偶者への不満など多岐に渡りました。
事実、彼らの多くが配偶者に子どもを連れ去られ、親権を失った方々ばかりでした。
驚くことに彼らの中には、どんな事情であれ子どもを連れ去られたら取り返すことは絶対にできないと信じている人が一定数存在していました。
連れ去り側に親権を渡すことが暗黙の了解となっており、裁判所での一連の審判などは形式にすぎないと思い込んでいる人すらいました。
その裏付けとして、私側に家庭訪問がなかったことを話すと、ある当事者は訳知り顔で頷き、さも気の毒そうにこう言いました。
「それは裁判所があなたのところに返すつもりがないからだよ」
そしてなんと、このような言葉を投げかけてきたのは1人だけではなかったのです。
確かに、通常監護していた側が連れ去ってしまったら、取り返すの難しいのかもしれません。
これは私の弁護士さんも仰っていたことですし、私も実際に裁判官が、監護していたのはどちらだったのか何度も確認している様子を見ていたので、とても重要なファクターであることは想像ができます。
しかし全てのケースで子どもが戻ってこないことなどありません、なぜなら背景はそれぞれだからです。
私の知り合った当事者の方の中にも、お子さんが帰ってきた方がいました。
良く考えていただきたいことは、声を大きくしているのは、子どもを取り返すことが叶わなかった親たちだということです。
同じ「子を連れ去られた」という事案でも、なぜそうなったのか、そうなるまでにどのような生活をしていたのか、全て事情が違うはずです。
絶対の自信を持って裁判に挑んでも、自分の思うような結果が得られなければ裁判所に不満を抱くこともあるでしょう。
事実私の元夫も、裁判所の決め方には納得がいかなかったと後に不満を漏らしていました。
裁判官からあれほどきつくお叱りを受けたにもかかわらず、です。
SNSは時に有益な情報をもたらしてくれる便利な存在ですが、同時に自分を不安に追い込むことにもなり得ると、よく覚えておかなくてはなりません。
連れ去りあった最中はとにかくメンタルが不安定になりやすいので、自分にとって精神的な負担になるような情報であれば、あえて見ないようにすることも大切です。